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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は淡路農業技術センター 農業部 主任研究員 二井 清友が担当します。

ウワバ類の天敵

ウワバ類とは聞き慣れない名前ですが、ある一部のガ類の総称で、この仲間のガ類は上羽(うわば、正しくは前翅)の色や模様に特徴があるため、この名がついています。ちなみにシタバ類という仲間もおり、これは下羽(したば、後翅)に特徴があります。淡路島のレタスで見られるのは、タマナギンウワバ、イラクサギンウワバ、キクキンウワバ等ですが、その名にあるようにそれぞれが前翅に銀色や金色の模様があります(図1)。

   
左から図1 イラクサギンウワバの成虫、図2 尺取り虫のように歩くウワバの幼虫、図3 ウワバ類の蛹

ウワバ類は他のヨトウムシ類と同様に幼虫がキャベツやレタスの茎葉を食害し、大きな被害を与えています。ヨトウムシ類と違い、腹脚が2対4本なので、4対8本あるヨトウ類に比べて歩き方がスムーズでなく、シャクトリ虫のように歩きます(図2)。また、蛹になる場所もヨトウ類は土中に潜るのに対して、葉裏などに簡単な繭を作りそのなかで蛹になります(図3)。

これらの外見以外にも、ウワバ類はヨトウムシ類と違う大きな特徴があります。彼らは特有の生体防御反応を持っており、寄生バチの卵が体内に産み付けられた場合には、血球細胞が集まって異物を取り囲み、体外に排除してしまいます。一般に野外で採集したハスモンヨトウやオオタバコガの幼虫は、多くの場合は寄生蜂によって寄生されており、ほとんどが成虫になることができません。一方、ウワバ類は寄生蜂による寄生がほとんど無く、その多くが成虫になるため、よりやっかいな害虫と言えるでしょう。

今年の夏、天敵の調査中に、ウワバの幼虫の皮膚の外側に寄生している寄生蜂の幼虫を見つけました(図4)。通常の寄生蜂のように幼虫の皮膚の内部に卵を産み付けると、その生体防御反応システムによって卵が排除されてしまいますが、外部寄生の場合は皮膚の表面に卵を産み付けるので排除されるおそれがありません。そのかわり、のんびりしているとウワバの幼虫が脱皮するときに産み付けられた卵や孵化した幼虫は一緒に脱ぎ捨てられてしまうので、産卵~孵化~捕食は素早く行われなければなりません。「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」は孫子の言葉ですが、まさに虫同士もお互いのことをよく知りながら生き続けています。われわれも虫たちのことをもっと理解し、将来この寄生蜂が利用できる日が来るように、現在、一寸の1/10にも満たないこの小さな寄生蜂(図5)を細々と飼育・観察しています。

   
左:図4 ウワバに寄生する寄生蜂の幼虫、右:図5 羽化した寄生蜂(約2mm種名未確認)