選別能力のある漁具の開発
皆さんは「漁具改良」と聞いてどんなイメージを持たれますか。初めて聞かれた方は、魚やカニが多く獲れる様に漁具を改良すること、とお考えになるのではないでしょうか。
かつての漁具改良はそうでしたが、近年、研究課題として取り組まれるのは、不要な混獲物の入網を防止して漁獲物の付加価値を高めたり、未来の資源である若齢魚の混獲死亡を減らすことなど、漁具を改良することにより資源管理を実現しようとするものがほとんどです。
ここに、私と船長をはじめ「たじま」船員が知恵を絞り、「極力シンプルに」を合言葉に開発し、その効果調査を実施してきた漁具(排出機構または混獲防止機構)を紹介します。
①底びき網における大型クラゲ排出機構
側面に網を二枚重ねにした排出口を配置し、網にもたれて転がってきた大型クラゲのみを排出します。(図1)
②底びき網における吊り岩構造の調整
底びき網の入り口で海底と接するグランドロープを、「吊り岩」と呼ばれる構造にし、海底との接触度合を調整することで、カレイ類などを漁獲しつつ大量に分布するクモヒトデの入網を防止します。(図2)
③底びき網における漁期外のズワイガニ排出機構
網の後半部分の底面をタラップ状に一段下げ、その先に排出口を設けることで、ズワイガニ漁期以外に混獲されるズワイガニを排出します。船上に揚げてからの再放流では高水温により生残率が低下する秋期に、特に大きな効果が期待できます。(図2)
④ベニズワイかにかごへの脱出リングの装着
かにかごの側面下部に内径10cmのリングを配置することで、甲幅9cm未満(水揚げ禁止サイズ)のほぼ全数、小型個体(同9~10cm)の7割が脱出できます。(図3)(リング1個、14日間以上かご浸漬)
底びき網の改良試験は、平成21年7月に竣工した漁業調査船「たじま」(199トン)で駆け廻し漁具の試験操業が可能となって初めて可能となったものです。
そして今最も注目されているのは③のズワイガニ排出機構です。ズワイガニ資源の動向が停滞から減少傾向にある中、禁漁などの大きな痛みを伴わずに実施可能な資源保護方策として、国の実用化事業にも取り上げられることになっています。