流木被害を発生させにくい森林に向けて
近年、ゲリラ豪雨などの増加により、山地渓流の浸食等に起因した流木被害が各地で多発しています。兵庫県でも平成21年8月に県南西部・中北部を中心に集中豪雨が発生し、甚大な被害を受けました。
この災害で大きく注目されたのは、山地から流出した流木による災害です。流木は、河川の橋梁等を閉塞させ、橋梁本体や上下流部の護岸、道路等を損壊し、時には越水を引き起こして周囲に大きな被害を引き起こしました(図1)。山地災害が、下流部へと被害を拡大させたのです。
一方で、渓流崩壊と共に流された立木が、渓流下部の森林に捕捉されて山地から河川へ流出せず、流木とならない状況も多く確認できました(図2)。森林が災害の拡大化を防いだのです。
これらのことから、山地災害の拡大化を防ぐ森林整備が検討されています。その一つとして、山地から河川へ流れ出す前の渓流下部(渓床勾配が20°以下のゆるやかなところ)に流木を捕捉しやすい森林(災害緩衝林)を整備することで流木被害を軽減する試みです。災害緩衝林には、土石流の流速を弱め、河川に流入する土石を減少させる効果も期待できます(図3)。
そこで私たちは、災害緩衝林整備の方法を検討するために、立木が土石流に抵抗して流木を捕捉する力(土石流抵抗力)を把握することとしました。立木の土石流抵抗力は、引き倒し試験(図4)で測定することが可能です。試験の方法は、立木が土石流を受ける高さを地上から1mと推定し、この部分にワイヤーをかけ、重機により引っ張り、引き倒し抵抗力を測定する方法です。
今回、引き倒し試験を行った樹種は、渓流下部によく植えられているスギです。間伐をしたスギ林と間伐をしていないスギ林とで引き倒し試験を行い、施業の有無によって引き倒し抵抗力に差異があるかを確認しました。
スギを引き倒してみると、胸高直径(地際から1.3mの高さの部分の直径)が大きいものほど引き倒し抵抗力が大きくなることがわかりました。また、間伐を行ったスギは、間伐を行わないものに比べ、同じ太さであっても引き倒し抵抗力が高くなる傾向があることがわかりました(図5)。このことから、スギ林に間伐を行うことによって、森林の土石流に対する強さは強くなり、災害緩衝林として効果が発揮できる可能性があることがわかりました。
また、どの程度の太さの立木が災害緩衝林として効果を発揮するかを検討したところ、胸高直径30cm以上の太さがあれば、標準的な大きさの土石流において流木捕捉効果を発揮できることが示唆されました。
しかし、強度すぎる間伐は、立木密度の低下を引き起こし立木間隔が空いてしまうため、流木捕捉効果が低下する可能性が考えられます。また、スギよりも災害緩衝能力が高い樹種も存在するので、災害緩衝林を新たに作る場合はそのような樹種を導入することも考えられます。このように、災害緩衝林の整備方法はまだ改良の余地があります。私たちはこれからも、流木災害を含む山地災害を減じるための森づくりについて研究を重ね、整備方法を検討していきたいと考えています。