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>私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は淡路農業技術センター 農業部 主任研究員 西野 勝が担当します。

「近赤外分光法によるタマネギ内部腐敗球の非破壊判別技術」

「淡路島たまねぎ」(平成22年11月、地域団体商標取得)は、ブランドタマネギとして全国に知られています。しかし、選果の際に外観からは見分けがつかない「心腐り」などの内部腐敗球が出荷品の中に混入すると、消費者・実需者からのクレームとなり、産地の信用を落とす問題となります。

そこで、「淡路島たまねぎ」の一層の信頼性向上を目指すべく取り組んでいる、近赤外分光装置いわゆる「光センサー」を使ったタマネギ内部腐敗球の非破壊判別技術について紹介します。

タマネギ内部を透過してきた光には、タマネギの内部品質に関わる様々な情報が含まれています。この透過してきた光を、ちょうどプリズムで虹を作るように、分光装置を使って、波長ごとの光の強さとして数値化したものをスペクトルといいます。健全球と腐敗球のスペクトルの違いを利用することで、タマネギに触れることなく、非破壊で瞬時に判別できるため、選果場での全数検査も可能となります。

大まかな試験方法の流れは以下のとおりです。

タマネギのサンプルとして、淡路島内で栽培される主要な3品種、「ターザン」、「もみじの輝」、「もみじ3号」の市場出荷品、および、選果場で選果後の腐敗球を用いました。

収集したタマネギを、PKコンベア式近赤外分光装置(写真1)を使って、タマネギの首を上向きに分速20mのスピードでコンベア搬送しながらスペクトル測定を行いました。

   

装置でのスペクトル計測の後、タマネギを縦に切断し、判別基準(図1)に基づく目視により、内部腐敗レベルを健全0~甚腐敗5までの6段階で実測しました。

   

なお、技術開発の精度として、「クレームの危険性が高い、レベル2以上の腐敗球の出荷品への混入率を1%以下に抑える」ということを具体的な数値目標としました。

測定した透過光スペクトルと腐敗レベル実測値を統計的な解析手法(PLSR)を使って関連付けし、スペクトルから腐敗を導き出すための「検量線」と呼ばれる予測式を作り、その予測式を装置に組み込んで実際に別のタマネギの腐敗をうまく判別できるかどうかについて評価を行いました。

その結果を図2のグラフに示しています。グラフは、横軸に腐敗の実測値、縦軸に推定値をとったときのそれらの関係を示すもので、実測値と推定値には高い相関が認められます。しかし、タマネギ個々に形状や皮付き、腐りの部位などが異なるため、同じ腐敗レベルでも推定値にばらつきが生じてしまいます。そのため、腐敗球を精度良く判別しようと境界値を低く設定すると、健全球を腐敗球と見るロスが多くなり、逆に健全球のロスを少なくしようと境界値を高く設定すると腐敗球の見落としが多くなるという、トレードオフの関係が見られます。

   

ここで、健全球のロス、腐敗球の見落としのいずれもが最も少なくなる最適な境界値(図2の赤ライン1.15)に設定すると、表に示すとおり、約3000球の全判別率は97.4%、また、クレームの危険性の高いレベル2以上の出荷品への腐敗球混入率を0.47%、選果ロスとなる健全球の誤判別率を0.72%に制御でき、実用を満たす腐敗判別精度が得られました。

   

また、この開発技術の実用性を評価するため、JA選果場で現地実証試験も行ったところ、上の結果と同様に、高い精度で腐敗判別が可能なことがわかりました。

この技術の実用化により、クレーム対象となるレベル2以上の腐敗球混入を1%以下に制御することで、生産者ごと、出荷時期ごと、あるいは年次ごとに異なる出荷品質を高位平準化することができ、産地の信頼性向上に役立つと考えられます。

さらには、判別の境界値をより低く設定することで、わずかな腐敗混入もない特選品といったランク分け選果も可能となり(図3)、高付加価値化、有利販売による技術導入のコスト回収とともに、産地の新たな販売戦略構築への取り組みへの貢献も期待できます。

   

今後は、姿勢制御、整列装置の組み込みにより、選別作業のオートメーション化を図り、実用技術としての完成を進める予定です。