ルーメンpHセンサーを活用した牛の胃にやさしい飼料給与技術の開発
牛には第一から第四までの4つの胃があり、そのうち第一胃はルーメンとも呼ばれ、成牛ではドラム缶ほどの容積があります。その中に膨大な数の微生物が棲息しており、牛が食べた飼料を分解・発酵し、その発酵産物と微生物を消化・吸収することで牛は乳肉を生産しています。
乳牛は遺伝的改良によって泌乳量が飛躍的に向上したことから、エネルギー価の高い穀類などの濃厚飼料を多量に給与する必要があります。しかし、濃厚飼料を多量に給与するとルーメン内で急激に発酵し、多量の有機酸を生じるため、ルーメン内が長時間酸性側(低pH)に偏ることで、牛が体調を崩すことも少なくありません。そこで、ルーメン内のpH変動がなるべく小さくなるように発酵をうまくコントロールしつつ、高泌乳生産に必要な分量の飼料をいかにして給与するかが乳牛をうまく飼いこなすポイントになります。
しかし、これまではルーメン内のpHを把握するにはルーメン液を採取して測定するしか方法がなく、長期間連続して把握することが不可能であったことからルーメン発酵のコントロールについてはまさに暗中模索でした。数年前に開発されたルーメンpHセンサー(写真)は牛に飲み込ませ、ルーメン内に留置することでpHを連続的に測定し、無線でデータを送信し、パソコンなどに記録できる画期的な測定システムです。このシステムを活用することで飼料給与法の違いがルーメン発酵に及ぼす影響を検討し、牛の胃にやさしく生産効率の高い乳牛への飼料給与技術を開発しています。
<分離給与法での検討>
分離給与法とは牧草などの粗飼料と濃厚飼料を別々に順次給与していく飼料給与法で、最初に給与する粗飼料と粗飼料給与から濃厚飼料給与までの時間間隔について検討しました。その結果、最初にイネ科の乾草を給与した場合(図1)と粗飼料給与後30分で濃厚飼料を給与した場合(図2)に最もルーメン液pHの変動が小さい(給餌後の棒グラフが低く、時間帯間で差が小さい)ことが分かりました。
<完全混合飼料(TMR)給与法での検討>
TMR給与法とは粗飼料と濃厚飼料を専用の攪拌機で切り刻みながら均一に混合してから給与する飼料給与法で、①乾草の粗剛さと切る長さ(切断長)の組み合わせと、②穀類の混合割合と切断長の組み合わせについて検討しました。その結果、柔らかい乾草を混合した場合は切断長が短いとルーメン液pHの変動が大きくなること(図3)、穀類の混合割合を高めても切断長を長めにすることでルーメン液pHの変動を小さくできること(図4)が分かりました。