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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は農業技術センター 農産園芸部 主席研究員 水田 泰徳が担当します。

クリを鍛えて寒さに強く!

兵庫県のクリは、「丹波栗」、「北摂栗」など大粒で甘いと消費者に人気ですが、生産量が不足しています。産地では需要に応えようと、新たにたくさんの苗木を植えていますが、冬の間に寒さで枯れることが多くなっています。その大きな原因の一つが、温暖化です。

温暖化でどうして?と思いますよね。まず、図1を見てください。「丹波栗」の産地である丹波市の年平均気温は、30年前には13℃程度でしたが、最近は14.5℃を上回るようになりました。また、厳寒期の1月の平均気温も30年前には0~3℃の間で推移していましたが、最近はほぼ3℃前後です。

ところで、図2のように、クリも他の越年する植物と同様に、秋から冬にかけて寒さを感じながら耐凍性(寒さに対する抵抗力、何度まで耐えられるか)を身に付けていきます。そして、厳寒期を過ぎると今度は暖かさを感じて春に向けての準備を始め、耐凍性が低下していきます。冬が比較的暖かかった2009~2010年は、2010~2011年と比べて耐凍性が低めに推移しています。一方、図3のように1~3月の最低気温(極値)は以前と同じ程度までしばしば低下しています。耐凍性が低いにもかかわらず、気温が低くなると、クリの樹は寒さに耐えきれなくなります。このため、最近は凍害が発生しやすくなっていると考えられます。これが、温暖化によって凍害が増えている理由です。

   

さて、クリの凍害対策は・・・?何かで覆って防寒することも考えられますが、過保護になって耐凍性が低下するのか、これまでクリでは効果が認められていません。ところで、図4のようにクリでは耐凍性と樹の中の水分が強く関係することが明らかになっています。つまり、クリの樹は他の植物と同じように樹の中の糖分を高めるとともに、水分を減らすことによって、凍結しにくく(耐凍性を高く)していると考えられます。そこで、冬の間クリが根から吸水しないようにすることで耐凍性を高めることができるのでは?そうです。寒さに対する抵抗力を高めてやるのです!

この凍害対策の切り札となっているのが「株ゆるめ」です。これは、冬を迎える前にフォークのような道具を使って、クリの樹の株を少し持ち上げます。この時、根が少し切れたり、土の中に亀裂ができて、根が吸水しにくくなり、樹の中の水分が減少します。これにより、耐凍性が高まって枯れることがほとんどなくなりました。現在、「株ゆるめ」は他県にも広まって、クリの幼木を守っています。クリの樹も鍛えてやることで、冬の寒さへの抵抗力を身に付けることができるんですね。・・・と言いながら、思わず厚着の我が身を振り返ってしまいました。

   
油圧ショベルを使った「株ゆるめ」(左)と反転鍬を使った「株ゆるめ」(右)