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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は企画調整・経営支援部 専門技術員 九村 俊幸が担当します。

黒大豆の深層施肥及び摘心技術の実証調査

1 実証目的

黒大豆栽培の新技術として、小畝立て深層施肥機による深層施肥技術、大豆摘心機による摘心技術等を技術検証し、高品質安定生産ができる機械化栽培体系を検討しました。

2 実証内容

(1)実証技術 ①小畝立て深層施肥技術 ②摘心技術(開花期に本葉第9葉節以上を摘心)
 (2)実証場所 北部農業技術センター(朝来市和田山町)
 (3)試験区の構成 ①施肥法 深層施肥区、深層施肥+側条施肥区、側条施肥区(慣行)
             ②摘心の有無 摘心区、無摘心区(慣行)
              ①と②の組み合わせの6区(実証5区、慣行1区)
 (4)栽培品種 丹波黒
 (5)栽培概要
   ①播種・施肥・除草剤散布(写真1)6月11日
   ・播 種 量 1.1kg/10a(Lサイズ種子:粒径9.1mm以上)
   ・種子予措 クルーザーFS30原液塗抹処理 乾燥種子1kg当たり6ml
   ・播種方法 2条播き小畝立て深層施肥播種機 条間75cm、株間72cmの1株1粒播き、覆土3cm(覆土がやや不完全)、畝高20cm
   ・施肥方法 側条施肥 大豆化成80kg/10a(窒素成分4.0kg/10a)
           深層施肥(深さ19cm) 石灰窒素18kg/10a(窒素成分3.6kg/10a)
   ・除草剤散布 クリアターン乳剤500ml/10a 播種直後処理
    ②中耕・培土 7月15日 3連中耕ディスク
    ③畝間灌水 7月30日から開始
    ④摘心処理(写真2)8月7日 大豆摘心機(車輪幅150cm、刈り幅284cm、車高85cm)
    ・刈り刃位置 畝床高47cm(摘心高54.7cm、本葉12葉節で摘心)
    ⑤葉取り 実施せず。

   
写真1 小畝立て深層施肥播種機による施肥・播種・除草剤同時処理
写真2 大豆摘心機で本葉第9葉節以上を摘心(開花期)

3 調査結果

(1)主茎長、主茎節数
  ①深層施肥区は生育後半に石灰窒素の肥効が高まり、主茎長が長く、主茎節数も増えました。
  ②無摘心区は8月の日照不足で蔓化して倒伏しましたが、摘心区は生育後半の主茎長の伸びが10~20%抑えられ、主茎節数も3、4節少なくなり、倒伏が軽減されました。(図1)
 (2)分枝数
  ①側条施肥区は生育後半に分枝数がやや多くなりました。
  ②分枝数は摘心区、無摘心区ともに7~9本程度で摘心の影響はありませんでした。
 (3)茎径、株当たり全重量
  ①茎径は深層施肥区が太く、側条施肥区が細い傾向でした。
  ②株当たり全重量は無摘心区が重く、摘心区は主茎の摘心で、10%程度軽くなりました。
  ③深層施肥+摘心区は株当たり重量が最も軽くなり、茎径がやや太くなったことで、最も倒伏が軽減されました。(図1)

   
図1 施肥方法、摘心有無による倒伏程度

(4)倒伏程度
  ①8月の日照不足で蔓化して、台風11号の通過で倒伏しましたが、深層施肥区は株当たり重量が軽く、茎径が太くなり、倒伏程度が軽減されました。(図1)
  ②台風通過前に摘心を実施することで、上位部の葉が除去され、倒伏を回避をする効果があります。
   

図2 施肥方法、摘心有無による精子実重
図3 施肥方法、摘心有無による百粒重

(5)莢数、精子実重
   ①㎡当たりの莢数は全ての実証区が慣行区を上回り、特に深層施肥区、側条施肥+摘心区で250莢以上となり、坪刈り単収も250kg/10a以上となりました。深層施肥技術と摘心技術を組みあわせることで、着莢率が高まり、増収につながりました。(図2)
  ②石灰窒素を深層施肥することで、生育後半に肥効が高まり、増収しましたが、深層施肥+側条施肥区は倒伏程度が大きく、莢数が減少し、収量が低下しました。(図1,2)
 (6)百粒重、等級割合
 ①百粒重は全ての実証区が慣行区を上回り、80g以上となり、粒張りが良く、大粒で、特に深層施肥区は生育後半に石灰窒素の肥効が高まった結果、84g以上と大粒になりました。さらに、摘心することで、莢数が増え、粒張りも良くなりました。(図3)

   
図4 施肥方法、摘心有無による出荷等級割合
3L:11mm以上 2L:10mm以上11mm未満 L:9.1mm以上10mm未満 M:9.1mm未満

②等級割合は全区で3Lが3割程度と高く、2L以上の割合も8割以上と高くなりました。特に深層施肥区は2L以上の割合が高くなり、生育後半の肥効が高まり、子実の充実が良くなったと思われます。さらに、摘心することで、3Lの割合が高くなり、2L以上の割合も高くなりました。(図4)

4 考察

(1)小畝立て深層施肥技術
  ①深層施肥技術は莢数が多くなり、精子実重が増加し、粒張りも良くなり、収量、品質ともに高める技術ですが、生育が旺盛で、摘心技術と組み合わせことが必要です。
  ②小畝立て播種機で高さ20cmの畝立てをすると、播種精度の低下や分枝の折れが問題となるため、高い畝立ては必要でなく、培土板よりもアップカットロータリーによる2畝内盛り耕うんでほ場残渣をすき込み、石灰窒素も15cm程度の深さに施用することを検討しています。
  ③小畝立て栽培は栽植密度が増加し、中耕培土を効率化する上で必要です。今回、栽植密度が10a当たり1,851株でしたが、株間を40cm程度に狭め、栽植密度を増加させ、摘心技術を組み合わせることで、10a当たり収量300kgが可能になると思われます。
 (2)摘心技術
  ①摘心は開花期に行うと、莢数が増え、茎の枯上がりも多少早くなり、粒張りも良くなり、収量、品質ともに高める技術です。深層施肥技術と組み合わせると、より高い効果が得られます。
  ②今回、開花期に摘心を行いましたが、その時、すでに倒伏している株がありました。倒伏防止や草姿を改善するため、早期に播種し、開花期摘心の前に、中耕・培土後に本葉第5葉節以上の高さで1回目の摘心を行うことが必要です。但し、この2回摘心技術は倒伏軽減効果が高まりますが、莢数の減少、屑豆率の増加、百粒重の低下を招き、収量や品質の低下につながります。そこで、深層施肥によって生育量を確保し、栽植密度を増加させて、粒張りと㎡当たり莢数を確保することが必要となります。