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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は森林林業技術センター 資源部 主席研究員 山瀬 敬太郎が担当します。

根の強さは何で決まる?

近年の短時間で局地的な大雨は、2013年の伊豆大島、2014年の南木曽、広島、そして兵庫県内の丹波で、土砂災害を引き起こしました。災害後に土砂の発生源まで遡上すると、大抵の場合、山地上流部に崩壊地がみられ(写真1)、その崩壊縁では、破断状態で露出している根を多数観察することができます(写真2)。そこで、こうした崩壊縁に露出している根の強さを評価すれば、崩壊防止力を補強するための森林管理手法の提案に繋がり、樹木による減災効果の発揮に寄与できるものと考え、根の引き抜き抵抗力を調べています。

   
写真1 土砂災害の発生源
写真2 崩壊縁の根

根の引き抜き抵抗力は、対象樹木の隣接した場所に土壌断面を掘削し(写真3)、断面に露出した遠心方向に伸長する根元部を特殊な鋏でつかみ、根の伸長方向とは反対方向に引き抜くことで測定することができ、人力あるいは手動ウィンチを用いて、根1本を引き抜くのに要する引張力を指標としています(写真4)。

   
写真3 スギ林の掘削断面
写真4 引き抜き抵抗力の測定

引き抜いた根の形態は、分岐の有無、根の長さ、破断の有無などまちまちでした(写真5、6)。そこで、根の形態が引き抜き抵抗力に影響を及ぼすかどうかを解析したところ、分岐数や根全体の長さ、表面積、体積よりも根元直径を知ることで、引き抜き抵抗力を高い精度で推定できることが明らかとなり(表1)、根元直径と引き抜き抵抗力の関係式は、同一樹種であれば、調査地による土壌や土質の違いに関係ありませんでした。また、引き抜き抵抗力の測定時に根が破断した場合と破断しなかった場合で、根元直径と引き抜き抵抗力との関係を比較した結果、破断の有無にかかわらず高い相関を示しました(詳細は、日本緑化工学会誌41(2)、301-307 をご覧ください)。

   
写真5 クロマツ根の形態
写真6 スギ根の形態
   

次に、樹種の違いが根の引き抜き抵抗力に影響を及ぼすかを解析したところ、高木樹種と低木樹種の根の引き抜き抵抗力を比較した調査では、低木樹種ミツマタは抵抗力が明らかに小さかったのに対し、低木樹種アセビは高木樹種スギと同程度の抵抗力がみられ(図1)、同じ低木樹種でも大きな違いがみられました(詳細は、日本緑化工学会誌41(1):15-20 をご覧ください)。

   
図1 高木樹種と低木樹種の引き抜き抵抗力の比較

このように、根の強さ(引き抜き抵抗力)は、根の形態や土壌・土質の影響を受けず、樹種の違いで決まることがわかってきました。今後は、より多くの樹種の引き抜き抵抗力を測定してデータベース化を図り、樹種の組合せによる斜面補強対策を提案するとともに、斜面地に必要な崩壊防止力の定量化を行いたいと考えています。