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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は農業技術センター農産園芸部 主任研究員 來田 康男が担当します。

「環境との調和=自然、文明両方を活かした農業に向けて」

兵庫県では、環境に優しい農業を進めており、化学農薬や化学肥料の削減に取り組んでいます。県の標準的な一般栽培での使用量に対して、段階的に30%減「環境創造型農業」注1)、50%減「特別栽培」、100%減「有機農業」へのステップアップを目指します(図1)。これに対応したコメづくりの技術開発に挑みました。

注1)国のガイドラインで「特別栽培」、「有機農業」が定められていますが、「環境創造型農業」は段階的に化学農薬、化学肥料の削減に取り組む中で、兵庫県が自主的な指標として定めています。

   

まず、県南部で7,160ha栽培され、県全体の水稲うるち品種の23%を占める「ヒノヒカリ」で、肥料の50%を天然素材の有機質肥料に置き換えて、化学肥料を50%削減した有機入り肥料で「特別栽培」の試験を行いました(写真1)。

有機入り肥料(写真2 右)は、化学肥料(写真2 左)に比べて効きが遅れるので、収量や品質が下がったり、生育の最後に効いてコメの食味が落ちる(タンパクが上がるため)などといわれています。

   
写真1 施肥試験ほ場
写真2 有機入り肥料と化学肥料

その結果、生育が遅れる傾向にありましたが、次第に追いつき(図2)、化学肥料に対して2~7%の減収にとどまり、コメのタンパクも上がらず、品質も低下しませんでした(表1)。

さらに、減収の問題は、堆肥等で地力を高めたほ場で栽培したり、肥料の量を増やせば解決します(表1)

   
図2 特別栽培(化学肥料50%減)の生育経過(作物研究第60号より)
   
表1 特別栽培と一般栽培の収量、品質 (ひょうごの農林水産技術 第184号より)

次に、化学肥料、化学農薬の更なる削減を目指し、ヘアリーベッチ(マメ科の緑肥作物)(写真3)を水田に鋤き込み、「ヒノヒカリ」の栽培試験を行いました。ヘアリーベッチは根に根粒(写真4)を持ち、その中に棲む細菌が、土壌内の窒素分子を植物が利用可能な形に変えて、水稲を増収させる緑肥効果(①)があります。また、ヘアリーベッチに含まれるシアノアミドには雑草の発生、生育を抑制する効果(②)があります。 
 ①、②の効果を活用すれば、化学肥料、化学農薬の両方の削減が期待できます。

   
写真3 ヘアリーベッチ
写真4 ヘアリーベッチの根、根に付く根粒 (矢印)

その結果、水田の主要雑草のコナギなどに対し、無処理の三分の一まで発生を抑え(図3、写真5)、効果はおよそ一ヶ月間継続しました。しかし、水田には㎡あたり数十から数百個体のコナギがあり、これを一ヶ月間、三分の一に抑えたとしても、残った個体が発芽、生長して、最終的には水稲が減収します。

   
写真5 ヘアリーベッチの鋤込み有無と雑草発生
図3 ヘアリーベッチの鋤込み量とコナギ発生度(作物研究 第60号より)

ヘアリーベッチの鋤込み後、水稲で収量500kg/10aを得るためには、7月末頃の雑草量(乾物重)を42kg/10a以下に抑える必要があります(図4)。

しかし、ヘアリーベッチだけだと抑制効果が弱いので、これに除草剤(化学農薬)の使用を組み合わせたところ、後期除草で40%の増収効果がみられました(図5)。除草剤の使用も認める環境創造型農業、特別栽培においては、7月末頃の雑草発生量が多い場合の対策として有効と考えられます。

が、有機農業においては化学農薬を用いない除草法との併用が必須となり、今後の課題となります。

   
図4 ヘアリーベッチ鋤込み後の残草量と水稲収量の関係(2016 日作紀講要より)
図5 ヘアリーベッチ鋤込みと除草の組み合わせが収量に及ぼす影響(2016 日作紀講要より)

【今後の展望】

化学肥料や化学農薬の削減は、究極的には100%の削減(有機農業)が理想的ですが、リスクや労力も大きく、化学肥料や化学農薬も必要です。これらも活用しつつ、段階的に削減を目指すことが、県や地域の農業を守ることにもつながり、そのための技術開発に向けて今後も取り組んでまいります。その一方で、化学農薬の削減率が高い農業に応用できそうな技術(水稲や雑草の発生に影響を与えるといわれるイオン水の活用など)の可能性も検証し、技術の構築を進めていきたいと考えております。