イチジクを『~簡単手軽に~』寒さから守る!
兵庫県は出荷量全国第4位のイチジク産地(H25年産特産果樹生産動態等調査より)で、主に県南地域や淡路島で栽培されています。本県のイチジク産地は、大阪、神戸等の大消費地に近く、その果実は完熟イチジクとして高く評価されています。
そんなイチジクですが、原産地が西南アジアの亜熱帯性果樹で、寒さには弱い果樹です。中でも本県で主に栽培されている「桝井ドーフィン」という品種は特に寒さに弱いため、冬に凍害を受けやすいことが栽培上の大きな課題となっています。凍害を受けると樹体の一部が枯死したり(写真1)、芽が正常に発芽しなくなるといった症状が現れます。その結果、凍害を受けた年の収穫量は大幅に減少し、さらに元の水準に戻るまで数年かかってしまいます。そのため産地では、一部の温暖な地域を除き、冬に樹体を寒さから守るために、稲わらを主枝に巻き付けて防寒(写真2)し、凍害を防ぐ対策をしています。
ここでは、当センターが開発した従来の方法に比べ、労力やコストの軽減が可能な新たなイチジクの凍害対策について紹介します。
1 稲わらの主枝上面のみの被覆
前述したとおり、従来は主枝全体を稲わらで被覆して防寒しています。当然、稲わらを厚くして覆うほど防寒効果は高まりますが、巻き付けに手間と労力を要することと、大量の稲わらを確保する必要があります。そこで、凍害が主枝上面の温度変化の大きさが要因で発生すると考えられることから、省力化と稲わら削減の観点から、主枝上面のみに稲わらを被覆する方法(写真3)について検討しました。すると、従来の方法と同程度の防寒効果があることが分かりました。稲わらの必要量は従来の半分程度で、巻き付ける時間も大幅に短縮できます。
2 アルミ蒸着フィルムの被覆
主枝をアルミ蒸着フィルムで被覆し、凍害を防止する方法です(写真4)。120cm程度の幅のアルミ蒸着フィルムで主枝上面を覆い、下面は開放しておきます。すると、地表面からの放射熱を効果的に受け止めることができ、放射冷却による主枝上面の温度低下を抑えるとともに、日射による樹体温度の急激な上昇を緩和する効果があります(図)。資材費として10a当たり8万円程度必要になりますが、3~5年間は使用可能であるとともに、被覆時間も従来の稲わらに比べ約4分の1に削減することができます。
3 ウレタンによる方法
スプレー式のウレタンを主枝上面に吹き付けて被覆する方法です(写真5、特願2014-147214号)。この方法は他の資材とは異なり、生育期に防寒資材を取り外す必要がありません(写真6)。また、このウレタンは晴天時には主枝上面への直射光を遮断するため、生育期において何も被覆しない場合に比べ主枝上面の温度上昇が抑えられ、直射光による主枝の日焼けも防ぐ、いわば一石二鳥の役割を果たしてくれます。コストは10a当たり10~15万円必要になりますが、被覆時間が従来の稲わらの巻き付けに比べ、8分の1程度に削減できるとともに5年程度は効果が続きます。今後は現地での実証を進め、産地へ普及していく計画です。
4 新樹形「オーバーラップ整枝」による凍害対策技術
本県のイチジクは、多くの産地で「一文字整枝」とい仕立て方で栽培されています(写真7)。「一文字整枝」は樹形がシンプルで栽培管理が容易で、初心者でも取り組みやすいことから、広く普及しています。一方で、主枝が地表面近く(40~60cm)の水平方向に配置されているため、冬季には放射冷却の影響を受けやすく、凍害に対しては弱い樹形と言われています。そこで当センターでは、作業性に優れ、「一文字整枝」に比べ凍害に強い新樹形「オーバーラップ整枝」(写真8)を開発しました。県下では既に、「オーバーラップ整枝」を導入している生産者が出始めています。なお、イチジクの「オーバーラップ整枝」は出願中特許(特願2014-147213号)のため、本整枝法を利用してイチジクを栽培する場合は、事前に兵庫県からの許諾が必要となります。許諾料については、県内の生産者の方は免除されます。興味のある方は当センターへご相談ください。ただし、県内生産者の特許利用を優先するため、出願中特許が登録されるまで、本整枝法の利用は県内の生産者に限定しています。
近年、気候変動等の影響により、イチジクに限らず他の果樹においても樹体の耐凍性が低下していると言われています。そのため、イチジクではこれまで被害が見られなかった比較的温暖な沿岸地域でも、凍害の発生が増加しています。今回紹介した防寒法や新樹形は、生産者の凍害対策の負担軽減につながる技術として普及することを期待しています。