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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は水産技術センター 資源部 主席研究員 原田 和弘が担当します。

「瀬戸内海の漁場環境変化がノリ養殖に与えている影響とその対策」

兵庫県の瀬戸内海側ではノリ養殖が盛んで、有明海と並び国内有数の生産地となっており、その生産金額(年間100~150億円程度)は本県瀬戸内海側の漁業全体の3~4割を占める基幹漁業です。

ノリは植物体なので、生育には陸上植物と同じ窒素やリンといった肥料成分がある程度必要です。しかし、近年は瀬戸内海の水質が改善されて、ノリにとって必要な肥料成分(特に窒素)が不足するようになり、しばしば「ノリの色落ち」が発生しています。色落ちしたノリは、色の悪さや、アミノ酸含量の不足等によって食味も低下してしまい、販売されないか非常に安価に取引されるため、漁業者にとっては大きな痛手となります。兵庫県海域では、1990年代後半頃からノリの色落ちが頻発して、生産量や生産金額の低下及び不安定化が顕在化するようになりました。

   

兵庫県内ではノリの色落ち対策として、人為的な手法によるノリ漁場への窒素の供給を試みています。その方法は、1)臨海部にある下水処理場における規制値内での窒素排出量増加運転、2)ダムからの一時放流、3)ため池からの放流、4)漁場への施肥、5)海底耕耘です。今回は、加古川河口域の窒素動態に関する調査から、加古川下流浄化センターでの窒素排出量増加運転によるノリ漁場への窒素供給の影響とその効果について紹介します。

   

調査の対象とした加古川河口域の主な窒素供給源として、加古川河川水及び東播磨港別府西港区(以後、別府西港区とします)からの流出水が挙げられます。そのうち、別府西港区には加古川下流浄化センターの下水処理水、産業排水及び泊川河川水が流入しています。また、近隣にはノリ漁場13号区があります(図3)。

①加古川河口域の窒素分布状況

加古川河口域の表層水中の窒素(DIN、溶存態無機窒素)の分布を調べた結果、加古川河口東部沿岸で窒素濃度が高い傾向にあることがわかりました。(図4)。

②加古川下流浄化センターの窒素排出量増加運転に伴う近隣水域の窒素濃度変化

加古川下流浄化センターで窒素排出量増加運転を試行している期間中の処理水放流口周辺の水域では、通常運転時に比べて明らかに窒素濃度が高くなっていました(図5)。

   

③加古川河川水及び別府西港区流出水による窒素動態シミュレーション

加古川河口域の窒素動態をモデルを用いて解析した結果、加古川河川水及び別府西港区からの流出水は、近隣沿岸部のノリ漁場に到達しているというシミュレーション結果が得られました(図6、瀬戸内海区水産研究所解析)。また、計算結果では窒素排出量増加運転で上乗せされた窒素も漁場に到達することが確認されています。

④加古川河口域のノリ漁場(13号区)におけるノリの色調

加古川河口近隣のノリ漁場13号区でノリの色調を調べた結果、河川や港湾域から窒素が安定して供給されやすい沿岸側では沖合側に比べて窒素濃度が高く、ノリの色調も良いことがわかりました(図7)。

   

これらの結果から、加古川河口域のノリ漁場では、加古川河川水や別府西港区からの流出水が重要な窒素の供給源であることが明確となりました。また、シミュレーション計算から加古川下流浄化センターの処理水もノリ漁場に到達していることが明らかとなり、窒素排出量増加運転によって上乗せされた窒素は、近隣のノリ漁場に供給され、ノリの生産及び品質の安定化に寄与していると考えられました。これらの結果は、「豊かな海」の復活を目指して、今後の瀬戸内海の水質管理のあり方を検討する情報として活用されています。