木材強度測定システム“WoodFFT”(ウッドエフエフティ)の開発
1 人工林も少子高齢化?
兵庫県内の人工林面積は全国で14番目(*1)。昔の方が苦労して苗木を植栽してくださった成果です。しかしながら素材(木材)の生産量は全国で23番目(*2)。つまり、面積の割にあまり伐採されていないというのが現状です。
森林を伐採(皆伐)しなければ苗木を植栽できません。つまり若返りが進んでいないのです。その結果、県内の民有人工林の面積の3分の2が46年生以上で、伐採利用が可能な年齢に達しています(*3)。20年生以下は3%にも満たないのですから、実は人間よりも少子高齢化が進行して、いびつな年齢構成となっているのです。
2 スギの大径化で林業は追い風?
スギで46年生であれば直径で30㎝の丸太が取れますし、60年生ともなれば40㎝を超える丸太も可能です。実際に県内の木材市場では直径の大きな原木(大径材)がたくさん流通するようになりました。
これで、兵庫の林業も安泰、と思われるかもしれませんが現実はそう甘くはありません。実は大径材の需要が多くないのです。
下の図をご覧ください。一般的な木造住宅で使われる部材ごとに国産材と輸入材の割合を示しています。直径が30㎝を超えるような大径材の主な使い道は、柱や土台でなく、梁(はり)や桁(けた)といった「横架材(おうかざい)」という部材、つまり屋根や2階の床を支えるような大きな断面の部材なのですが、国産材は9%※しか使われていません。なぜなのでしょうか。(※9%には国産材集成材を含み、無垢の国産材は3%。)
3 国産材の梁・桁が使われない理由
梁・桁といった横架材は、強度が求められる部材ですから、工務店や設計士さんは安全安心な住宅を建築するために強度性能の確かな木材製品を求めています。ところが、国産材製品の強度表示は、外材製品に比べて大きく出遅れています。
これにはいくつかの理由が挙げられますが、主な理由としては、国産材挽きの製材工場には中小規模の工場が多いこと、そして強度表示に必要な木材強度測定装置は一般的に高額なため、中小規模の工場には手が出しにくい装置であることが考えられます。
そこで、当センターでは「中小製材工場でも導入できるような安くて簡易な強度測定装置をつくること」を研究テーマとして取り組みました。
4 始まりは県職員の発想から
木材強度測定システムの開発は、平成24年に遡ります。本県の職員である井上靖氏(現阪神農林振興事務所里山・森林課長)が、趣味で得意のプログラミングで簡単な木材強度測定ソフトを考案しました。木材を叩いたときの音(振動数)、密度と長さで強度(ヤング係数)が測定できるというFFT(高速フーリエ変換)の原理を活用したもので、井上氏はこのソフトに“WoodFFT”と名前を付けました。
このソフトを用いた強度測定システムを確立するため、平成24年度から試験研究課題化して試験を行ったところ、“WoodFFT”は非常に高い精度で強度が測定できることが分かりました(平成27年度までは当センター木材利用部永井智主任研究員が担当)。
驚くべきは、このシステムの値段です。市販のパソコンに加え、市販の体重計とマイクとハンマーとで3万円(パソコン除く)程度という安さです。これなら小さな製材工場でも手に入れることができます。
しかし、このシステム、操作に2人必要なので、試験研究に使えても工場では使えなさそうです。実用化のためには一人でも操作が可能な装置化が必要でした。
5 一人作業の実現に向けて
ところで、この“WoodFFT”に興味を持った企業が現れました。宍粟市内の建材メーカーで、系列の工務店とともに県産材をふんだんに使用した住宅を建てています。
この建材メーカーが製材工場、機械メーカー、工務店、商工会そして当センターなどに声を掛け、異業種による開発グループを結成しました。そして、産業労働部の補助金(異業種交流活性化支援事業)を活用するなどして、平成27年度に一人でも操作ができる装置を開発しました。この装置、パソコンのマウスをクリックするだけで、木材の打撃、打撃音測定、固有振動数の解析、強度判定を行うことができるようになりました。しかも(一社)全国木材検査・研究協会の認定をもらい、この装置があればJAS認定工場になることも可能、というお墨付きを得たわけです。
しかし、この装置、サイズが5.5mと大きなうえ、秤や打撃装置の位置をいちいち調整しなければならないという操作の煩雑さが問題であり、実用化に向けた新たな課題を残しました。
6 安くて操作が簡単なシステムの実現に向けて
そこで、「構造がコンパクトで、操作も簡単、精度も高くて、何せ価格が安いこと」をコンセプトに、先ほどの異業種グループが取組を継続しています。年度内の完成に向け、目下装置の改良を進めているところです(平成29年2月時点)。
また、今後は安さばかりでなく、測定作業の無人自動化など、効率性を求める中規模以上の製材工場が必要とする装置の開発と、強度の高い製品を効率よく生産できる新たな製材ラインの開発を検討していきます。
これら“WoodFFT”の開発によって、小規模から中規模までの製材工場が強度測定システムを導入することが可能となり、県内スギ大径材から強度表示梁桁が多く生産されるようになることを願っています。
7 これからの新たなテーマ
木材強度装置の開発ですから、当然、強度測定用の試験体の木材が必要です。製材工場から買ってしまえばそれまでですが、製材のシステムと木材の特性を勉強するために、研究員自ら原木を木材市場で買い付け、当センターの帯鋸盤で直径44㎝以上の原木を自ら製材しています。
強度の大きな試験体を製作するために、強度の強そうな原木を市場で選ぶのですが、見た目では強度は分かりません。強度表示製品の需要が増えたら強度表示原木のシステムも必要になるかもしれませんね。
それと、製材する人なら気づくことですが、大径材の辺材(外側)からは節のない板が取れますが、心材(内側)付近は節以外にもカミキリムシの食痕やシミなど欠点が出てきます。一般的な芯持ち(年輪の中心を含めた断面)で製材すると、梁桁の両側に欠点が現れてがっかりするのですが、芯去り2丁取り(年輪の中心で2つに割った断面)であれば、欠点は片方のみに現れ、もう片方は無節のきれいな材面となります。このような製材方法の普及や乾燥方法が“WoodFFT”に続く新たなテーマとなりそうです。