トップページへ

私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は水産技術センター内水面漁業センター 主席研究員 増田恵一が担当します。

低コストで渓流魚を増やすための技術開発

内水面の漁業協同組合は組合員の減少及びアユ遊漁者の減少により経営状態が悪化しています。一方、遊漁者のスタイルは変化し、簡単な道具でも釣ることができる、ヤマメ、アマゴ、イワナなどのサケ科魚類を対象とした渓流釣りの増加が目立っています。現在の漁協経営の中で、渓流魚資源を低コストで増殖して遊漁者のニーズに応えるため、稚魚放流よりコストが低い発眼卵放流技術を開発しました。

発眼卵放流とは、受精後約3週間経過して眼が形成され、運搬によるショックに耐えられるようになった発眼卵を、カゴに入れて放流する方法です。図1の通り、サケ科魚類はふ化後も長く卵黄吸収によって成長するので、この間は無給餌で保護、育成が可能です。また、発眼卵はカゴの目合いから抜けませんが、ふ化して成長すると体が細くなるので目合いから抜け出すことが可能になります。

   
図1 サケ科魚類の初期生活史

このようなサケ科魚類の特性を生かした発眼卵放流には次のようなメリットがあります。

  1. 卵の価格は稚魚より安いので、少ない経費で多く放流できる。
  2. 卵は、運搬が簡単なので、稚魚を運べないような山奥の川にも放流できる。
  3. 天然水域に早くから慣れているため、魚の姿かたちが美しくなる。

一方、稚魚放流よりサイズが小さいため、放流後の減耗が激しいので、容器内での生き残り向上、及び自然環境に出てからの保護が課題です。

カゴを用いた発眼卵放流は国内外で以前から行われていた方法ですが、日本のサケ科魚類に適したカゴの目合いは検討されていませんでした。そこで、虫カゴの上下の間に中仕切り網として4mm目合いのネット、下内側に4mm目合いのネットを取り付けた従来型容器(図2)を改良し、上内側5mm、中仕切り4mm、下内側3mm目合いの容器を製作し、中仕切り網上に発眼卵を置き、河川に設置して、両者の比較を行いました。上内側へのネット取り付けにより、初期の脱出を減少させることができ、図3の通り、3cm稚魚の残存率は、ヤマメで0.3%から50.5%、イワナで12.5%から42.8%と、飛躍的な改良効果が認められました。

   
図2  虫カゴ利用の発眼卵放流容器
図3  発眼卵放流容器内の仔稚魚残存数

放流後の減耗をなるべく少なくするため、発眼卵放流適地の条件を調べました。天然魚の産卵場が、適地の条件を備えていると考え、産卵場の環境を調べた結果、次の通り発眼卵放流適地条件が明らかになりました。

見た目では、図4のような場所が、好適な場所になります。

   
図4 発眼卵放流適地の例

標識放流および目視による密度調査の結果から、ヤマメ発眼卵7.3個(12円分)が、通常放流サイズのヤマメ1尾(20円)に相当することが分かりました。発眼卵放流により、放流経費の4割カットが可能になります。

また、発眼卵を用いることにより、今まで稚魚放流ができなかった河川源流部にも放流が可能になります。このことにより、遊漁者が河川を中流から源流まで広域的に利用できるようになり、遊漁者の増加が期待できます。

これまで書いた試験研究は、平成25~27年度に実施され、現在、成果の普及段階に入っています。県内では、揖保川と加古川で試験的な発眼卵放流が既に実施されており、平成29年度には更に多くの河川で、発眼卵放流が試される予定になっています。