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普及現場における経営雑感 (2002)

よくある間違い2
 集落営農組織の会計指導をしていると、必ず一度は間違えて理解されるところがあります。
 それは収支決算会計の営農組織が、はじめて損益決算会計を導入する場合に生ずる問題であり、その内容は、繰越利益という勘定の概念の部分です。
 収支計算書の繰越利益の概念と、貸借対照表の繰越利益の概念とは、まったく異質のものです。
 収支計算書上で表されている繰越利益は、現金と普通預金の総額であり、貸借対照表においては、流動資産の部の現金預金で表されるものです。
 それに対して、貸借対照表で表されている繰越利益は、前期以前の利益の内部蓄積されたもので、貸借対照表上では資本の部の中で表されるものです。
 前期以前の利益の蓄積部分と現金預金とは、同じものではないかと言う人もありますが、まったく違います。
 この貸借対照表の繰越利益は、資本の部の増減部分であり、その増減部分は、現金預金とは限りません。
 こんな禅問答をやっていてもきりがないので、事例で説明いたしましょう。
 A集落営農組織において、1億円の借り入れをすると、収支計算書での繰越利益は、1億円のプラスになります。
 ところが、貸借対照表上の繰越利益は、まったく変わりはありません。
 変わるのは、借方の現金預金が1億円プラスされると同時に、貸方の借入金が1億円プラスされるだけの話で、貸借対照表の釣り合いはうまくとれています。
 さらに、事例で理解を深めましょう。
 A集落営農組織は、ある日トラクター100馬力(時価1,000万円)を拾いました。
 落とし主が現れず、とうとうA集落営農組織のものになりました。
 (ちょっと事例が極端ですが、理解促進のために許されて・・・・)
 このときのA集落営農組織の収支計算書での繰越利益は、なんの変化もありません。
 (現金預金が増えませんから)
 ところが、貸借対照表上の資本の部の中においては、当期利益が1,000万円が生じ、借方にトラクターという資産が生じます。
 そして、次年度になったときに、この当期利益は、繰越利益に加算されることになり、繰越利益の構成部分となります。
 
 ここまで説明をすると、集落営農簿記の講座生も何とか理解してくれるのですが・・・1年たって少し間をおくとすぐ忘れるようです。
 まっ、そんなことにめげていては、普及員はやっていられません。
 経営指導は、繰り返し繰り返しの連続が必要であり、その中で対象の経営知識および能力の濃度を高めていくことが大切です。
 
 さて、話は変わりますが、せっかく理解してもらったばっかりなのに、講座生として来ていた役員・会計が変わってしまって、また一から始めなければということが多々あります。
 私は、このことを喜んでいます。
 そのことに気がついたのは、集落営農簿記講座開設の最初の年でした。
 ある日、講座生が言ったのです。
 「先生、せっかく作った貸借対照表と損益計算書を役員全部に見せたのですが、『ようわからん。今までどおり(収支決算会計)にしてくれんか。』と言うんです。」
 営農組織の構成員のうち、貸借対照表、損益計算書を理解できる人が何人いるかというと、その答えは、ほとんどないというのが現状です。
 だからこそ、講座生が変わることは、その営農組織の中での会計の理解者の濃度を上げる良いチャンスなのです。
 積んでは壊され、積んでは壊される阿修羅の世界ですが、この簿記指導という賽の河原の石は、壊されるたびに少しずつ高くなっていくような気がしています。
 今日も、積みにいこーっと!