成熟する資源・スギを梁や桁に利用する技術の開発
WoodFFT・簡単部材算定・Tajima TAPOSⓇ
開発の背景
在来工法住宅において梁や桁等の横架材(おうかざい)に使用される木材の量は、一棟あたりの木材平均使用量の約30%を占めます。そして現状は、それら横架材の90%以上に輸入材が使用されています(図1)。しかし一方で、戦後の拡大造林開始から半世紀以上が経過し、スギの多くは断面の大きな横架材への利用が可能な径級へと成長してきました。
しかしながら、兵庫県では、一般により強いとされるマツ類が従来から横架材に好まれ用いられてきたこともあり、工務店や建築士等の間では、経験のないスギを横架材に使用することを不安視する傾向が見受けられました。それは、
- たわみやすそうだし強度がわからない、
- 外材は使い慣れているけれどスギ材での設計方法がわからない、
- 材質が柔らかいので接合部がめり込んでしまうのではないか、
といったものです。
そこで当センターでは、建築サイドから唱えられた上記三つの不安要素に焦点を絞り、それらの信頼性を高める技術開発に産官連携で取り組んできました。
その結果、三要素を克服する技術を開発することができました。
開発その1:たわみに対する信頼性を高める強度測定システム「WoodFFT」(ウッドエフエフティ)
兵庫県の林学職員により開発されたPCソフト「WoodFFT」を市販のハンマー、体重計、USB接続マイク、そしてWindows PCと組み合わせることにより、非破壊・安価・簡易・高精度に木材のたわみにくさ(曲げヤング係数)が測定できるポータブルシステムを平成24年度に構築しました(図2)。
このシステムは大変簡素で数万円程度で一式を揃えることも可能ですが、測定には最低でも二人が必要なため、製材工場での実用化となると生産コスト高になってしまいます。また、独自の開発であるため、JASの機械等級区分構造用製材すなわち「E70」といった表示はできません。
そこで平成26年度、県内の木材関連企業および工業関連企業等からなる「簡易木材強度計開発グループ」が発足し、機械化システムの開発が進められました。その結果、WoodFFTソフト上での1クリックで「重量データ取込、木口面の打撃、マイクによる音の収録、WoodFFTによるヤング係数の算定、測定結果の表示」を可能にする機械化システムが開発されました(図3)。
現在、グループ代表企業により、(一社)全国木材検査・研究協会の「機械等級区分装置」認定に向けての申請が行われているところです。
開発その2:スギ横架材設計ソフト「簡単部材算定」
本県は、北は日本海、南は瀬戸内海に面し、淡路島を介して太平洋を臨む広大な県土を基盤としており、積雪量に関して一般区域(0.3m)から多雪区域(2.0m)までが存在するため、建築地域ごとに積雪量に配慮した住宅設計が求められます。そこで、但馬木造住宅振興協議会と連携し、建築地域、材料使用部位、使用樹種・等級を選択し、部材の支点間距離、隣接する部材の使用間隔、および部材の幅を入力すると、たわみ制限(例えば床梁はL/600mm、小屋梁はL/200mm)をクリアする梁の高さが自動的に表示されるエクセル版のスパン表ソフト「簡単部材算定」を開発しました(図4)
WoodFFTによる測定結果を本ソフトに反映させると、信頼性をさらに高める設計が可能になります。
開発その3:接合部の信頼性を高める高強度梁仕口「Tajima TAPOSⓇ」(但馬テイポス)
スギ材は輸入材と比較して密度が低いため、従来の梁仕口(図5)で比較すると耐力が小さめの傾向にありました。しかし、新しい仕口形状Tajima TAPOSⓇの開発(図6)により、耐力を大幅(幅120×高さ240mmの梁材の場合、スギ無垢材比で約3倍、輸入材比で約1.7倍)に高めることができました。そこで、県内のプレカット工場2社において横架材加工ラインでの自動量産体制が整備され(図7)、平成26年10月に商用生産が開始されました。平成27年度は兵庫県から大阪府、京都府へと施工実績が拡がりつつあります。
Tajima TAPOSⓇについて詳しくはこちら
おわりに
資源循環型林業の推進を目指し、スギ横架材の付加価値化技術(WoodFFT)と利用技術(簡単部材算定、Tajima TAPOSⓇ)の開発に取り組んできました。これらの技術が県内外に拡がり、住宅や公共施設でスギ横架材の利用が進むことが開発参画者の総意です。
利用推進の鍵は、1)高品質なスギ梁・桁材をいかに安定的に量産できるか、2)スギ材利用の意義をいかに需用者に浸透できるか、にあると考えます。今後も必要に応じて新たな参画者を募り、需給体制の強化を図っていきます。