お答えします !

前へ  次へ

農家のひとりごと 3(2002/6/13)
「小規模企業共済と農業者年金とどちらが得やろか。」

 某農業生産法人に出向き、事業主のための退職金制度(小規模企業共済制度)及び農業者年金制度についての話をしたときに、その経営者から思いもかけない質問を受け戸惑ったことを憶えています。
 その内容は、「小規模企業共済と農業者年金とどちらが得ですか。」というものでした。
 小規模企業共済制度と農業者年金制度は、趣旨目的も内容もまったく違うものであるにもかかわらず、こんな質問を投げかけてくるのです。あーびっくりした。
 しかし、よくよく考えてみると、農家にとって掛けた分だけちゃんと返ってくるかという視点が常にあり、その観点からみると同じ領域のようです。
さらに、両者とも老後保障という面からみると、農家にとっては同じ比較の対象なのです。
 どちらを選択するかは、各種ケースによって異なってきます。
 今回の場合は、50代の夫婦からの質問でした。いまさら各種制度に加入しても、あと何年働けるかわからないといった不安定要素の中で、掛け損になるのだけは避けようと考えるのは当然のことです。
 しかし、上記両制度では、12ヶ月以上掛けさえすれば損になるようなことはなく、あとは条件により幾ら返ってくるかというだけの問題です。
 まず、この点で安心してください。
 最初に、小規模企業共済制度について説明します。
 これは、個人事業主又は会社の役員(奥さん又は子供さんが役員になっている場合は、奥さん又は子供さんもOKです。)のための退職金制度です。
 一般サラリーマンと同じように、毎月の掛け金を納付していくと、当人が事業から身を引くとき(退職、事業廃止、その他の事由)に退職金(この事業では一時払いの共済金という。)又は分割払いの共済金を受け取ることが出来ます。
 一時払いの共済金収入については退職金扱いであり、分割払いの共済金については公的年金の雑所得扱いですから、それぞれ退職所得控除又は公的年金控除があるため、ほとんど税金の影響はないものと考えられます。
 この小規模企業共済は、共済(退職)事由によって各共済金受給ランクがあり、そのランクによって受け取る共済金額が違ってきます。
 最も多く共済金額を受け取ることが出来る事由は、A共済事由つまり事業そのものの廃止の場合です。
 私の知っている事例で、大規模稲作農家が経営を廃止し(廃止した態にしただけかも)、作業受託農家になった例があります。
 次に共済金を多く受け取れるのは、B共済事由つまり本人の傷病又は死亡によって、退職、又は65歳以上180日掛け金納付者が共済金受給請求する等の事由の場合です。
 65歳になったらいつでも受給できるって、なかなか魅力的だとは思いませんか。ただし、この場合40歳から掛け金を納付していかなければなりませんが。
 その次に多くもらえるのは準共済事由の場合であり、役員の任意退職、配偶者又は子への事業譲渡等の場合です。
 この場合、受け取り金額は、上記B共済事由による受給金額の80%の金額に付加準共済金額を加えた金額です。これらの金額の合計値が掛け金総額に満たない場合は、掛け金総額が支払われる仕組みとなっていますのでご安心ください。
 いちばん受給できないのは、解約の場合ですが、ここでは説明はいたしません。
 次に、農業者年金の説明をします。
 今回の農業者年金改正で、確定拠出型年金システムとなり、制度としての安全性は格段に高くなりました。
 これは、一言でいうと、「貯蓄型の80歳までの保証が付いた終身年金システムであり、上記小規模企業共済掛け金同様、掛け金が全て費用損金になるというまことに有難いシステムです。」ということです。
 さらに80歳以上生きたら、あとは丸貰いであり、仏様のような年金システムです。
 この農業者年金システムには、特例付加金という国の助成金とその運用益を基礎にした年金システムがありますが、このシステムについては、農家に対していつもこういってます。
 「息子が農業を継ぐかどうかさっぱりわかれへん時代やし、20年間も保険料(掛け金)納付期間が要るし、なによりも掛け金額の上限(20,000円)があるゆうことは、保証額にしたらたいしたことあれへんやないか。ほんまに老後を考えるんやったら、奥さんと二人で毎月10万円ぐらい掛けとかんとあかんで。」
 この話をしてから、すぐに特例制度をキャンセルして掛け金額をいっきに3倍増にした農家もいました。
 この農業者年金は、掛け金納付月数に関係なく、65歳から受給することが出来ます。
 前述の小規模企業共済は、65歳以上の年齢且つ180ヶ月以上の掛け金納付期間を満たさなければ、農業を継続したまま年金を受給することは出来ません。
 農家にとって、どちらが良いんでしょうね。
 農家にとって、どちらも同じようなものすが。・・・・
 私ですか?。条件によりますね。
 そのときに健康状態がよく、ある程度の蓄えがあるならば、農業者年金を選ぶかもしれませんね。
 その、反対にいろいろな不安定要素を抱えた中での経営を行っているときは、小規模企業共済を選ぶかもしれません。ケースバイケースですね。
(おっと、知らぬ間に農家と同じ視点に立ってしまいました。普及員がカテゴリーミステークをしてどうするんでしょうね。でも、農家の人の気持ちがよくわかりました。)
 法人組織で役員である配偶者を加入させる場合も、同じような考え方で加入させるかもしれません。
 この領域は、本人及び家族の考え方の問題です。

 最後に、小規模企業共済制度の簡単な概要と改正後の農業者年金の保険料納付とその簡単な(簡単すぎる)内容を掲げますので、参考にしてください。(参考にならないかも)


 事業主の退職金制度(小規模企業共済制度)

項目 概要
掛 金 毎月1,000円~70,000円(500円刻み)
(加入後の増額は可能だが、減額は難しい)
特 徴 1 掛金は全額所得控除の対象となる。
2 共済金収入は税法上、次の扱いとなる。
  一時払い・・退職所得扱い
  分割払い・・公的年金等の雑所得扱い
運 営 中小企業事業団(小規模企業共済法)
窓 口 商工会・商工会議所・信用金庫・銀行・信用組合 他


  新制度下における保険料納付と年金

保険料納付額 実際に支払った保険料納付分に見合う
農業者老齢年金
政策支援助成金に見合う
特例付加年金
政策支援を受けない農業者
 経営規模にあった保険料
   20,000円~67,000円
     (1,000円刻み)
×
政策支援を受ける農業者
 定額20,000円の中での実支払額
   10,000円コース
   14,000円コース
   16,000円コース
下記条件全てクリア―
  :経営継承
  :農地等の権利移動
  :20年要件
    保険料納付期間
    +カラ期間
    (現行制度との通算可)

* 80歳までの補償が付いた終身年金である

 今回は、雇用者の退職金制度(中小企業退職金共済制度)の説明は省きました。