簿記指導って何?
「普及員が、簿記指導なんかやるもんやないやろ。そんなもんは、駅前留学にまかしとかんかい。」
よく聞かれる言葉である。
大きな間違いである。この言葉が、普及関係者から発せられたものでないことだけが、救いである。
そもそも、簿記というものは何であろうか。
技術の裏付け資料・判断日誌が、作業日誌であるならば、経営の裏付け資料・判断日誌は、簿記記録である。
つまり、経営判断日誌帳のことである。
そこには、経営者の経営能力のみならず、経営者の性格、判断基準、技術、家族の状況等が全て記録されている。
それを、日誌としての体裁を整えてやり、その集体型表をつくりながら、その場面場面で経営指導を行うことが簿記指導である。
簿記指導をきちんと行えば、経営指導の80%は行ったも同じである。
ここで困るのは、簿記指導を単なる複式簿記指導と間違えることである。
現場の農家の簿記記録に定まったものはない。
広告用紙の裏に殴り書きしたものや、領収書だけしかないのものから、ちゃんとした複式簿記記帳しているものまで、100人100様である。
大切なことは、どれも正しい簿記記録・簿記日記帳として認めてやるところから出発することである。
よく、複式簿記でなければ、きちんとした財務諸表が作成できないという声をよく聞くが、まったくの間違いである。
どんな経理をしようが、わずかな手がかりさえあれば、1円の間違いもない財務諸表をつくることは、極めて簡単である。
現在、作成された財務諸表からいろいろな分析をする手法が確立しているが、これを活用して経営指導を行っている事例がたくさんあるのであろうか。
財務諸表分析からあぶり出される経営上の問題点は、財務諸表作成段階で明らかになるものばかりであり、1対1ですでに指導完了済みのものばかりである。
普及員は、農業経営の医者でもあるから、経営問診と患者(農業経営体)の観察と経営全体の観察の過程で、症状を想定し、財務諸表を作成する過程で病名を確定し、本人にあった対処法を指導する。
ここで絶対してはいけないことは、患者(農業経営体)の状況を観察せずして、コンピューターによる財務諸表分析をして、症状及び対処法を確定することである。
さらにいけないのは、その分析をするのが、まだ現実の農業経営体の外科手術(財務諸表作成等)を、自分自身の力でやったことのない医者(普及員)がする場合である。
そこから出てくる病名及び対処法ほど信頼性のないものはない。
患者が、一番信頼するのは、患者の症状をしっかりみて、話もきいてくれる医者である。
そして、いま一番足りないのは、そういう医者(普及員)なのである。