お答えします !

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だって楽しいもん(2002年)

 現場に行くと、子供心を大切にしている農家と相対することがあり、とても嬉しくなることがあります。
 先日、某農家の経営指導に訪れることがあり、コンピューターを前に話し込んでいました。
 そのとき、経営的なものから技術的流通的なものまで、各種の質問をしていました。
 その技術的な質問をしたときに、数年前からの本人のほ場での作業状況技術内容をコンピューター画面で見せてくれたのです。
 その内容たるや単なる作業日記にとどまらず、新品種の導入試験、画像、生育データをきちんととっており、試験場顔負けのものでした。
 新品種だけでなく、各作物の生育状況もデータ及び写真にとっており、その蓄積が何年にも渡っているようです。
 作業日誌は、農家で時々見せてもらえるときはあるのですが、ここまでデータを取り揃えている事例は初めてでした。
 そこで
 「なんで、ここまでやっとん? データをとるんも大変やし、まとめる時間もたいへんやろ。」
 と聞くと
 「だって、楽しいもん。」
 この答えには、再度びっくりしました。
 農家の人と二言三言言葉を交わしていると、その人の人生観がおぼろげながら、見えてくることがあります。
 農業を、儲けの手段と考えるか、生活の糧と考えるか、人生の旅として考えるかでその内容は大きく違ってきます。
 実際は、これらが複雑に混ざり合っているのですが、その濃淡によって行動も考え方も異なってきます。
 当の本人は、毎日の作業技術データをきちんととり、次年度の経営に生かしていこうという気持ちであることは間違いありませんが、それプラス、自分の経営の旅の記念写真のつもりで、全てのデータを取ってもいるのです。
 だからこそ「だって、楽しいもん。」という言葉を返してきたのです。
 さらに、言葉が続きます。
 「あの年良かったと言うても、どれぐらい良かったんか、データ取っとかなわからへんし、その状況も写真で取っとかな、そのときの色つやまでわからへん。」
 さらに
 「この写真見ただけで、周りの状況風景がよみがえるんや。」
 人は、記憶の集合体のようなものですから、記憶の入口(写真、家族、友人、家、学校、風景、データ記録、その他etc)がたくさんある方が、より人生は豊かになります。
 農作業データ及び写真をきちんととっていくことは、自分の人生の旅を大切にすることと同じような気がしています。
 それは、儲けるとか儲けないとかを、超越しているような気がするのですが・・・。
 それが、なかなか出来んのですわ。私も含めて・・・・
 「だって、楽しいもん。」と言えるような農家を、増やさなあかんのですが・・・・。