農家のひとりごと(2002/7/8)
「視察受けない。そっとしといて」
「公開して良い技術・情報と、公開してはいけない技術・情報」
先日、ある農家を訪れる機会がありました
うわさには聞いていたのですが、自己開発技術をシステム化し流通も開拓し、独自の経営スタイルを築いているのを目にし、本当にびっくりしました。
ここまで経営感覚がある農家を目にするのは、ひさしぶりでしたから。
そして、この農家の言うことの最初から最後までの趣旨は、次のことでした。
「我家の技術情報は、だんまっといて。誰にも言わんといて。」でした。
ことわっておきたいのですが、この農家と当普及センターとは犬猿の仲でもなく、大変よい関係を維持しています。
仲良くはするけど、技術情報については話が別です。
情報格差=所得格差の概念は、当たり前の概念ですが、その内容は状況により違ってきます。
酪農情報のように、隠さなくても世界中日本中に最高の技術が溢れているような状況では、隠すだけの情報はほとんどなく、むしろ、積極的に情報公開し他にも情報を求めるというようなオープンな態度が経営向上に効果的であるといえます。
この場合は、情報が広がってもそのことによりすぐには所得に影響がない状況にあります。
反対に、オープンにすることにより絶対的情報・絶対的技術優位性が失われ、そのことにより本人の所得が減になる可能性がある場合があります。
この場合は、飯の種(技術・情報)は公開しない、視察も受け入れないといったことが大切となってきます。(普及員も)
こういう部門のほとんどが、すきま産業です。
すきま産業は、農業部門にも結構多いのではないでしょうか。
すきま産業は、特殊な作物のみならず一般的な作物にもあります。
すきま産業・産物たる要因としては、地域性、気候風土、消費地の条件、作物の特殊性その他いろいろあります。
すきま産物があるなら、すきま産地もあります。
ただ、すきま産業はすきま産業なりの育て方があるので、注意が必要です。
普及員は、少しでも可能性のある作物産物を農家が作り始めると、それを地域に普及しようと活動を始めます。ひどい場合は、それを普及するために農協や自治体の応援体制まで作ってしまうのです。これが実によくない場合が多いのです。
そして、そのことによりせっかく灯った火が見事に消えてしまうわけです。
世界最高のファイアーマンです。
アメリカの消防士なんか目でもありません。
すきま産業の育て方は「広めない」に尽きます。
どんな産業にも、花の開き方があります。
一気に咲く花、ゆっくり咲く花、竹の花のように70年に1回咲く花、・・・
来年咲く花に無理やり加温し、最高の肥料を与えても枯れるだけです。
今の普及事業は、今日咲く花ばかり追い求めすぎて、あまりにも余裕がなさ過ぎます。
すこし視点を変えると、すきま産業に適した産物・産地は、すぐ横にあることに気がつきます。
足りないのは、その評価と理論だけです。
普及方法の原理は、普及しない方法の原理と表裏一体です。
確立した普及活動が無いのと同様、普遍的な普及活動もありません。
要は、普及員の心が自由であるかどうかの問題です。