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普及現場における経営雑感 6(2002/6/11)
「事業主勘定が合いません。」

 前普及センターでのこと。決算前の農家からの質問でした。
 「先生。決算したら事業主勘定がマイナスになるのです。どないしましょ。」
 普及の現場というものはおもろいもんです。
 ごくごくあたりまえのことが、農家にとって(実は普及員にとっても)理解の範疇外だったりします。・・・
 普及員は、農家の立場に立ち、農家と同じ目線でものを考え、農家の自立を促すためいろんな手助けを行います。
 話を元に戻しますが、農家の簿記経理というものは、その場主義が大半です。
 通帳及び現金が、経営分と生活分及び個人分とが入り混じり、まさにカオス状態の中で事業だけが進んでいきます。
 そして、事業主勘定をどの状況で処理すべきかを気にもしないまま、決算期を迎えます。
 そのときになって、領収書だけをもとにコンピューターなんかに仕訳を打ち込みますが、やはり付け焼刃、いろんな問題が生じてきます。
 コンピューターによって打ち出された貸借対照表の現金預金残高と、実際の預金残高とがまったく合わないとか、ひどい場合には現金残高はプラスなのにコンピューターの画面ではマイナスだったりとか、・・・
 ひとつの事例があります。農業機械を買うときに、おじいちゃんの好意によりおじいちゃんの貯金から出すことになりました。
 しかし、おじいちゃんは税務署に目をつけられるのを嫌がり、簿記上何の処理もしないよう要求しました。
 決算期になり、せっかくの農業機械を費用化しない手はなく、減価償却資産として資産計上しました。
 すると、その相手科目として現金預金勘定を記載するより方法がなく、結果として貸借対照表の現金預金額が途方もなくマイナスになってしまいました。
 それぞれの経営には、それぞれの思惑があるため、それぞれにおもろい簿記をしてますわ。
 その他、せっかく奥さんが几帳面にコンピューターに記帳しても、決算期に入り旦那さんが「今年は税金を幾ら払たろかな。」からの逆決算をするため、今までのコンピューター記帳がすべてパーになったり・・・・
 結局、税務署に提出する財務諸表は損益計算書のみとなり、奥さんはやる気がなくなり、せっかくのコンピューター簿記は費用損失収益計算における記録簿及び集計計算の道具と成り下がるのです。

 たいへんな横道にそれてしまいました。
 事業主勘定の話でしたね。
 これは、取引から決算までの流れを目で理解するのが一番でしょう。

取引の流れ 貸借対照表の流れ
 1年度

・Aさんは、金融機関から60円を借入れ、自分の金を40円を足して100円で農業機械貸付事業を始めました。
    借方           貸方
   現金   100   借入金     60
               事業主     40


 期首貸借対照表         1年1月1日
借   方 貸   方
 現金     100  借入金    60
 事業主    40





・トラクターを現金50円で購入しました。
    借方           貸方
 トラクター   50     現金    50


運動貸借対照表
借   方 貸   方
 現金     50
 トラクター  50
 借入金    60
 事業主    40





・トラクターを農家に貸し付け、40円の収入を得ました。
    借方           貸方
   現金   40    賃貸し収入    40


運動貸借対照表
借   方 貸   方
 現金     90
 トラクター  50

 賃貸し収入  40
 借入金     60
 事業主     40



 

   
・子供の教育費50円を、この現金預金から支払いました。
    借方             貸方
 事業主     50     現金    50


           すると、こうなって 
                  
運動貸借対照表
借   方 貸   方
 現金      40
 トラクター   50
 事業主     50
 賃貸し収入   40
 借入金     60
 事業主     40
 こうなりました。   
運動貸借対照表
借   方 貸   方
 現金      40
 トラクター   50
 事業主     10
 賃貸し収入   40
 借入金     60


・これで1年度の取引は全て終了しました。




・トラクターの減価償却費を10円計上しました。
 その分トラクターの価値が目減りしました。
    借方              貸方
 減価償却費   10     トラクター    10

運動貸借対照表
借   方 貸   方
 現金      40
 トラクター   40
 事業主    10
 減価償却費 10
 賃貸し収入  40
 借入金     60







 費用収益に関係する科目と、それ以外の科目(資産・負債・資本)に分けると次のようになりました。
                  損益計算書    自1年4月1日
                             至2年3月31日
借   方 貸   方
 減価償却費  10
 当期利益    30
 賃貸し収入   40


貸借対照表
借   方 貸   方
 現金      40
 トラクター   40
 事業主    10

 借入金     60
 当期利益   30


 2年度


・前年度の当期利益は2年度の事業主勘定になりますので、
期首貸借対照表
借   方 貸   方
 現金      40
 トラクター   40
 事業主    10

 借入金     60
 事業主     30




・2年度の期首貸借対照表はこうなります。
期首貸借対照表
借   方 貸   方
 現金      40
 トラクター   40
 借入金     60
 事業主     20


 このあとの処理で難しいのが、所得税及び住民税額を支払ったときの処理です。
 この処理が、農家にとっても普及員にとっても、あまりよく理解されていないというのが現状です。
 この処理には、いくつかの方法があります。

(1) 本来の方法・・・未払い税金勘定を設け、翌期に実際の所得税及び住民税額を支払ったときに、その未払い税金勘定で差引をする方法。(さらにその後の処理について説明したかったのですが、気を失われそうなので省略します。わからないときはいつでもコール)

(2) 所得税及び住民税額の支払い時に、事業主勘定だけで処理する方法。
この仕訳は、正規の簿記の原則に従った処理ではありませんが、誰にも迷惑をかけないという点で、許容範囲のうちと考えられます。
  事例で見てみましょう。
    前述の2年度の貸借対照表から出発します。
    取引:所得税及び住民税10円を支払いました。
     仕訳
           借方            貸方
         事業主   10     現金     10

(3) 所得税及び住民税額を、この経営の現金預金からでなく、自分の財布から支払う場合。
     仕訳なし

 まっこんな感じですか。
 みんな(普及員を含む)が好きなのは、(2)と(3)による方法でしょう。
 大切なことは、意味がわかった上で処理することです。