私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今回は農業技術センター 主任研究員 本田 理が担当します。

 

河川水の農薬モニタリング調査

 

 河川水の農薬モニタリング調査について紹介します。農産物(食材)には農薬の残留基準値が定められています。残留基準値は、人が摂取しても安全であると評価された量です。米(玄米)、トマト、キャベツ、肉、魚介類など、それぞれに農薬の種類ごとに基準値が定められており、基準値を超過した場合、その農産物が販売されることはありません。

 また、農薬の基準値は水にも定められています。農薬の登録の際には厳しい試験が課せられています。農薬の効果を調べるだけでなく、各種の毒性試験、環境中における動態及び土壌への残留に関する試験などなど、その項目は多岐にわたり、試験に適合しない成分については農薬として登録されることはありません。

 水域においては「水域の生活環境動植物の被害防止に係る農薬登録基準」が定められており、水域に生息する動植物への影響を評価する予測濃度(PECという)が基準値を超過する場合は登録できない制度になっています。河川水における農薬濃度をモニタリングすることは水域の生態系を守るために重要であり、兵庫県でも環境省事業(農薬残留対策総合調査事業)を活用して河川水の農薬モニタリングを行い、農薬が水域環境に与える影響について調査しています。

 

   農業者人口の減少や高齢化が進む一方で、担い手の規模拡大が進んでおり、また、温暖化などの気候変動による病害虫・雑草の多発生など、現在の農業を取り巻く情勢の中で、安定的な農産物生産のために農薬の使用が不可欠です。水稲においては、種子消毒、田植時の苗箱施用剤、除草剤、出穂時期の本田防除剤などの農薬を使用しています。使用した農薬成分の多くは土壌中や植物体内で分解されますが、一部は地下浸透や大雨の際にオーバーフローする水の流れと共に河川へ流出します。

 当センターで実施する河川水モニタリングは、兵庫県環境研究センターと連携して行い、年度ごとに1カ所の河川流域を選定して、その流域内の34ヶ所の地点で河川水を採取し(写真1)、農薬濃度を分析しています。令和23年度は殺虫剤3成分、除草剤3成分の計6成分を対象としました。モニタリングの期間は水稲の栽培期間に合わせて410月に行い、基本は週1回、田植や出穂期など農薬使用量が多いと見込まれる時期は週2回の調査を行いました。採取した水は写真2のようにガスクロマトグラフという機器などで分析しました。

 

 

 図1に殺虫剤成分Aのモニタリング結果を示しました。Aの分析値は破線で示した基準値に比べ1/10以下と、とても低い値となっていました。同様にモニタリングを行った殺虫剤2成分、除草剤3成分に関しても基準値に比べ低い値となったことから、上記の6成分では、この河川における水域の動植物への影響は少ないと考えられました。           

 

 

 

 図1を拡大したものが図2です。殺虫剤成分Aのピークが5月中旬、5月下旬、6月上旬にあることがわかります。これはこの地域で栽培している水稲の田植時期と一致しており、田植時に使用した農薬が田面水を介して流出したものと考えられます。        

 今回のモニタリング結果では農作業により農薬が河川に流出している実態がわかりましたが、農薬濃度は基準値に比べ大変低い値でした。

 水稲の田植時は苗箱施用剤、除草剤など複数の農薬を使う時期であり、現地では普及指導員や農協の営農指導員から適正な農薬使用方法の遵守や、田植後はかけ流しをしない等の水管理が指導されています。今回の結果により、今まで指導されていた農薬の適正使用や水管理の重要性を再認識することができました。今後も河川水中の農薬モニタリングを継続し、得られたデータを基に農薬が水域の動植物に与えるリスクを検証するとともに、農薬の使用者に対し登録に基づいた適正使用を指導していきます。