私の試験研究
当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。今回は水産技術センター 職員 梶原慧太郎が担当します。
はじめに
日本人にとってなじみの深いワカメ。お味噌汁はもちろん、サラダや酢の物など、私たちの食卓に欠かせない食材となっています。そのほとんどは養殖により生産されており、兵庫県は全国有数の養殖ワカメの生産地です。
ワカメの中でも、養殖株ごとに特徴(大きさや色調など)に違いがありますが、農業や水産業の分野ではこの特徴のことを特性と呼びます。では、どのような特性を持つワカメが有用であるといえるのでしょう。実は、ワカメの特性には生長の良し悪しや葉の色つや、葉の厚さなど、多くの評価指標があります。これらの指標の中で、私たちが注目しているのは生長です。生長はワカメの収穫時期を左右する要素の1つであり、早く収穫することで、養殖業者さんは他の産地よりも先立って出荷することができるため、単価が高くなり収益が向上します。また、生長の速い養殖株は、通常の株と比べて同じ養殖期間でもより大きくなるため、生産量の増加が期待できます。つまり、生長は消費者というより養殖業者さんにとって重要な特性であり、生長の速いワカメは産業上有用であるといえます。
今回は、表1に示す4種類の親株から得られた配偶体を用いて交雑試験を実施し、系統の組み合わせの違いでどのような生長差が生じるかを調べました。試験の結果、近交の程度が高い(血縁関係が近い)組み合わせほど、最終的な生長(藻体の長さや重さ)が悪くなることが明らかになりました(図1)。多くの生物では、遺伝子が近い個体同士で交雑すると、劣性遺伝子と呼ばれる有害な遺伝子が強く発現し、生育不全や繁殖能力の低下などを引き起こすことが知られています。この現象を近交弱勢といい、今回の試験において生長差が生じた要因であると考えられました。
ワカメでは、養殖株同士を交雑させる交雑育種により、より有用な株の作出が試みられています。今回の結果は、交雑させる配偶体の親株の系統から、作出される養殖株の生長の良し悪しをある程度予測できることを示すものであり、交雑育種に取り組む上で重要な知見となりました。今後は、さまざまな種類の養殖株において生長以外の指標も評価し、より生産現場のニーズに対応したワカメの作出を目指して研究を続けます。