当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。今回は水産技術センター 研究員 堀部倭子が担当します。
はじめに
兵庫県瀬戸内海海域では2000年代以降、アサリを代表とした二枚貝の漁獲量が激減しています。その中で、2022年の春頃から本県播磨灘沖合域でたくさん漁獲されるようになり、漁業者の間でも関心が高まっている二枚貝があります。大きく鮮やかな赤い足(腹足)が特徴的な「スダレガイ」です(写真1)。あまり聞き慣れない名前かもしれませんが、アサリやハマグリと同じマルスダレガイ科に属する二枚貝で、もちろん食用にもなります。筆者が“串焼き”や“すまし汁”などの料理(写真2)として味わった印象では、歯ごたえが良く、舌の上で塩味がほんのり広がり個人的には好評価でした。
本種は日本国内では、北海道南西部から九州の浅い砂場に生息しますが、漁業の実態としては全国的に流通するほど漁獲される地域はほとんどなく、兵庫県でも漁業や生態に関する記録がありません。そこで、新たな資源として注目を集めるスダレガイの持続的な有効利用を図るために、水産技術センターでは2022年度から、漁獲物として水揚げされるスダレガイの基礎情報の収集に取り組んでいます。今回は、本研究で明らかになったスダレガイの生物学的特性や食品としての成分の一部をご紹介します。
スダレガイの“ふっくら”指数
一般的に二枚貝で身入りの指標に用いられている肥満度(体の大きさに対する体重の割合)を用いて、2022年漁期の10~5月に身入り状態の変化を調べました。その結果、10~12月は横ばい傾向を示していましたが、1~5月にかけて増加傾向を示すことが確認できました(図1)。なお、アサリの場合、この肥満度は生殖腺の発達と同調することが報告されています。スダレガイの産卵時期は明らかになっていないものの、毎月の軟体部外観の観察では、1月以降5月にかけて生殖腺部位はオレンジ色を帯びて膨らんできていました。今後、成熟に関しては詳細に調べる必要がありますが、スダレガイも産卵に向けて生殖腺が発達したことで、1月以降身入りが上昇したのではないかと推測されます。
スダレガイで免疫力UP !?
2022年漁期の2月に漁獲されたスダレガイの軟体部の機能性成分を分析しました。その結果、強力な抗酸化作用をもち、老化防止やがん予防に高い効果が期待されている微量元素「セレン」が、一般に食用流通する二枚貝に比べて極めて高い割合で含まれていました(図2)。スダレガイを食べることで免疫力の向上が期待されることから、この結果は、健康をサポートする食品としてアピールできるポイントのひとつであると考えられます。
今後の利用拡大に向けて
漁業関係者からの聞き取りの中で、「本種の知名度を上げたい」、「付加価値を高めて単価を向上させたい」など利用拡大に向けた積極的な声もありました。そのためには、まずはスダレガイ自体を知らない消費者等に向けて、食品としての知名度や価値を広くアピールしていく必要があります。 読者の皆様でまだ食べたことがない方は、これから“ふっくら”身入りが良くなるスダレガイをぜひ一度味わって、その感想をみんなでシェアしてみてください!
一方で、スダレガイを今後も持続的に利用していくためには、適正な漁獲により漁業経営が維持されることも重要です。そのためには、スダレガイの成長や成熟、産卵等の再生産に関わる生物学的特性や環境への適応性等を明らかにしていく必要があることから、引き続き関連情報や新たな知見の収集に努めていきたいと思います。