春の味覚“ハタハタの一夜干し”について、加工屋さんの“職人の技”を、技術センターの“ちょっと科学の目”で紹介します。
 ハタハタは沖合底曳き網漁業で獲れる魚で、一夜干しには大きさが16~20センチのものがよく使われます。意外と知られていませんが、兵庫県はハタハタの漁獲量日本一を誇っています。生鮮でも流通していますが、多くが “一夜干し”になっています。
 底曳き網漁船が獲ってきたハタハタは、浜で競りにかけられ加工屋さんに運び込まれます。加工屋さんに運び込まれたハタハタは、包丁で腹を割いて内臓を取り出した後、氷水中で攪拌し、表面のぬめりと内臓のかけらを洗い流すとともに血抜きを行います。こうすることで生臭さが少なくなり、製品の色つやも良くなります。洗い終わったハタハタは塩漬けをしますが、塩漬けには次の2種類の方法があります。1つは“まぶり塩漬け”と呼ばれる昔からの伝統的な方法で、調理・洗浄したハタハタに直接塩と氷をまぶして桶に入れ、重石をのせて一晩漬け込みます。この方法で漬けたものは、魚の表面から中心まで均一に塩分が浸透しており、保存性が良く生臭さが少ないと言われています。もう一つは“たて塩漬け”と呼ばれる現在多くの加工屋さんが行っている方法で、調理・洗浄したハタハタを、7~10%位の冷塩水に1~2時間ほど漬け込みます。この方法で漬けたものは、ハタハタ特有の色合いが鮮魚に近い状態で残っておりきれいな外観になります。加工屋さんは、原料の獲れた時期や大きさ、鮮度によって、塩分濃度や漬け込み時間を微調整しています。塩漬けが済んだハタハタは、鰓ぶたの後方から口に向かって串を通します。これは鰓ぶたと口を開けることで風通しを良くし、傷みやすい鰓を早く乾燥させるためです。串刺しした後、さっと水洗いして乾燥します。表面の塩水を洗い流すことで製品の色つやが良くなるちょっとしたこつです。乾燥は、冷風乾燥機を用いて20~25℃で5時間程度行います。昔はほとんど天日乾燥でしたが、現在では、天候に左右されず1年を通じて均一な製品を作れる点や衛生面で優れている冷風乾燥が主流になっています。
 干物とはいうものの、現在の一夜干しの塩分は1~2%、水分は鮮魚より3~5%少ない程度ですので、昔の干物に比べると保存性は低くなっています。ハタハタは9月から翌年5月まで獲れますが、春は脂がのっていて皮も軟らかく一番おいしい一夜干しができる時期です。自分の好みにあった塩加減、干し加減の一夜干しを作ってみてはどうでしょう?

 

 

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