食欲の秋真っ盛り、もうすぐ松葉ガニのシーズンも始まります。が、今回は今が旬の“丸干しきす”について、加工屋さんの“職人の技”を、技術センターの“ちょっと科学の目”で紹介します。
“丸干しきす”の原料は、但馬地方では“キス”とか“沖ギス”と呼ばれていますが、投げ釣りや天ぷらでおなじみの“シロギス”のことではなく、標準和名はニギスと言います。 ニギスは底びき網漁業で9月から翌年の5月までの9ヶ月間獲れますが、実は今、脂が良くのっていておいしい時期なのです。脂がのった状態というとマグロのトロのように身(筋肉)の中に霜降り状態で脂が含まれているものや、サンマのように皮と身の間に皮下脂肪の層があるものを想像しがちですが、この時期のニギスは内臓周りに脂の固まりをため込んでいます。今はやりの“メタボ・・・”状態です。 20cm以上の大きいものでは身の脂肪分が4~7%位ありますが、15cm程度の小さいものは1~2%位しかありません。しかし小さいものでも身と内臓を一緒にすると脂肪分が5%にもなります。 “丸干し”には大きさは15~20cm位の比較的小型のものがよく使われます。大きなものは生鮮で流通したり、“焼きぎす“に加工されることが多いようです。
底びき網漁船が獲ってきたニギスは、浜で競りにかけられ加工屋さんに運び込まれます。運び込まれたニギスは、軽く水洗いして表面の汚れと鱗を除去します。ニギスはカレイやハタハタなどに比べて身が柔らかく傷みやすいのでやさしく取り扱います。
丸干しをつくる場合、洗い終わったニギスは塩漬けをします。 加工屋さんの多くは、塩漬けを7~10%位の冷塩水に30~90分ほど漬け込む“たて塩漬け”と呼ばれる方法で行います。また、原料の獲れた時期や大きさ、鮮度によって、塩分濃度や漬け込み時間を微調整しています。
塩漬けが済んだニギスは、串刺しにした後さっと水洗いして乾燥します。 乾燥は冷風乾燥機を用いて20~25℃で5~8時間程度行います。以前に紹介したハタハタやスルメイカに比べると長い時間乾燥します。串刺しの時同じ方向に刺して腹側から風を当てること、魚同士がくっつかないようにすること、乾燥途中に一度風向きを変えることなどがポイントです。 腹側から風を当てるのは、水分が多く痛みやすい内臓がある部分をできるだけはやく乾燥させるためです。
“丸干しきす”の塩分は2~2.5%、水分は50~60%位で、“一夜干しかれい”や“一夜干しはたはた”に比べると塩分がやや多く、水分は少ない傾向があります。これは、おいしさとともに、“丸干しきす”は他の一夜干しとは違い、内臓を除去していないため保存性を高める必要があるからです。
今は天気も良く、おいしい“丸干しきす”ができる時期です。自分の好みにあった塩加減、干し加減の丸干しを作ってみてはどうでしょう?
乾燥中の“丸干しきす
(お問い合わせ)但馬水産技術センター TEL:0796-36-0395