開発技術名
播磨灘北西部沿岸域の二枚貝類養殖漁場の漁場形成機構
技術開発の経緯
瀬戸内海では漁獲量の減少が著しく、その原因究明が大きな課題となっている。2015年に改正された瀬戸内海環境保全特別措置法では、瀬戸内海における栄養塩類と水産資源の関係性、及びそれに伴う栄養塩類の管理のあり方が検討条項として盛り込まれた。近年、貧栄養化が課題となっている播磨灘において、兵庫県下の二枚貝類養殖漁場(播磨灘北西部沿岸)では、比較的安定した生産が維持されている。生産性の高い当漁場の環境特性が維持、形成されている要因を解明することによって、播磨灘の栄養塩類管理や養殖管理施策への活用が求められている。
開発技術の内容
ア 隣接する備讃瀬戸を含めた播磨灘広域調査から、河川水等、陸域負荷の影響を受ける播磨灘北部沿岸及び児島湾口周辺で、植物プランクトン量の指標であるクロロフィルaや溶存態無機窒素(DIN)濃度は高い傾向にある。一方、備讃瀬戸方面から当養殖漁場への直接的な影響を示唆する連続的な水質の分布は明確でなく、当漁場の二枚貝養殖は、県内の陸域負荷源からの栄養塩供給、及びそれに伴う一次生産(植物プランクトンの発生及び増殖)により支えられていることが示唆される。
イ 二枚貝類養殖漁場周辺の調査から、表層クロロフィルa、DIN及び全窒素(TN)濃度は、河口周辺海域で高い傾向にある。連続観測から、当該養殖漁場への栄養塩類供給は、東方海域(揖保川以東の陸域負荷)からの影響が大きく、西方海域(千種川)の栄養塩類供給の影響は小さい。また、塩分とクロロフィルa、TN濃度間には有意な負の相関(p<0.01)が認められることから、陸水が沿岸の栄養塩類や一次生産量の動向に関与していることが強く示唆される。
ウ 姫路市の網干漁場と家島諸島の西島漁場において養殖マガキの成長を比較した結果、クロロフィルa濃度は網干漁場で高く、マガキの軟体部重量及び肥満度も陸域負荷源に近い網干漁場で有意に高い(p<0.01)。
エ 播磨灘北西部の二枚貝類養殖漁場における一次生産は、揖保川以東の陸域負荷源に由来する栄養塩類の供給を主体に維持されていることが数値シミュレーションから示唆される。
以上のことから、兵庫県播磨灘北西部の二枚貝類養殖漁場は、揖保川以東の播磨灘北部沿岸の陸域負荷源からの栄養塩類供給と、それに伴う一次生産により支えられていると考えられる。今後、兵庫県海域の栄養塩類管理を進めるにあたっては、陸域負荷を中心に沿岸部の養殖漁場への波及効果を考慮する必要があると考えられる。
期待する効果
栄養塩類管理による兵庫県瀬戸内海域の安定的な漁業・養殖業の持続と発展。