当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。今回は森林業技術センター 研究員 中川湧太が担当します。

 

 みなさんは、昨年(令和6年)カメムシさんにどれくらい出会われましたか?

 令和6年は発生量が多い表年だったため、彼らにしばしば出会われたのではないでしょうか。カメムシ類(果樹カメムシ)は、ナシ、モモ等の果樹に被害をもたらすことが知られていますが、実はスギにも被害をもたらしているのをご存知でしょうか?

 カメムシ類(図1)は、図2のような生活史(生まれてから次世代が生まれるまでのサイクル)を営んでおり、発生量が多い表年と少ない裏年が交互に起こると言われています。スギには夏から秋にかけて飛来し、球果表面から種子に向けて口針を挿し込み、種子内部に達すると吸汁します。このとき、吸汁された種子は発芽能力を失います。森林林業技術センターでは、スギの種子を生産しており、発芽能力を失った種子が増えると安定供給に支障が生じます。実際、平成30年頃からそのような種子が増えてきており、カメムシ類による吸汁が一因ではないかと考えられました。しかし、彼らがどこから、いつ、どれくらいスギに来て、どの程度被害を与えているのかは十分にわかっていません。

 そこで、これらを明らかにするため、令和3年度から緑化センター少花粉スギ採種園(朝来市山東町)において、定点モニタリングを行っています。カメムシ類の発生パターンの把握のため、集合フェロモンにより成虫を呼び寄せる「フェロモントラップ」と枝葉にいる成虫と幼虫を振り落とす「ビーティング」の2つの手法(図3)でカメムシ類を捕獲し、種毎の個体数計測を行いました。また、被害把握のため、5月から袋で覆いカメムシ類から吸汁されにくくした「袋あり区」と、何もせず吸汁し放題の「袋なし区」を設定し、両区の発芽率及び、カメムシ類の吸汁した痕跡である口針鞘の有無を調査しました。

 

 

 令和6年の定点モニタリングでは、チャバネアオカメムシ、クサギカメムシ、ツヤアオカメムシの3種類が捕獲されました。フェロモントラップでは、春から秋にかけて3種計8,179匹が捕獲され、うち9割がチャバネアオカメムシでした。優占種であったチャバネアオカメムシに注目すると、フェロモントラップ(図4上段)への飛来ピークは、越冬世代(前年生まれ)が7月、当年世代(当年生まれ)が8~9月と推定されました。ビーティング(図4下段)では、5月上旬から成虫、7月下旬から幼虫が捕獲されました。このことから、フェロモントラップで確認された8~9月の飛来ピークは主に当年世代(当年生まれ)であることが示唆されました。

 また、カメムシ類の吸汁した痕跡である口針鞘は「袋なし区」のみでみられ、約半数の種子でみられました(図5)。発芽率は、「袋あり区」では44%とスギの平均(26%)を上回りましたが、「袋なし区」では7%にとどまり、カメムシ類の吸汁により発芽率が約8割低下することが明らかになりました。

 今後も継続的に採種園での定点モニタリングを行い、表年、裏年それぞれの典型的なパターンを明らかにするとともに、採種園での防除実施基準を模索していきたいと考えています。また残された課題として、カメムシ類がどこからスギに来ているのか?、なぜ表年、裏年それぞれに特徴的なパターンが生じるのか?、について、カメムシの気持ちに寄り添って明らかにしていきたいと思います。

 

 

参考文献 中川湧太(2025)スギ採種園におけるカメムシ類の発生パターンと加害による発芽率への影響. 兵庫の林業 No.313:7-8.