当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。今回は水産技術センター 主任研究員 妹背秀和が担当します。
兵庫県では西播磨地域を中心にカキ養殖が盛んで、その生産量(年間6,000~9,000t程度)は全国4位の重要な漁業です(図1)。
マガキは二枚貝で海水中のプランクトンを濾(ろ)過して食べますが、毒を持った貝毒原因プランクトンを食べると、体内に毒が蓄積します。毒が蓄積したマガキなどの二枚貝を人が食べると、中毒症状を引き起すことがあります。麻痺性貝毒は有殻渦(うず)鞭(べん)毛(もう)藻(そう)のアレキサンドリウム属の有毒種等(図2)が産生する神経性の毒です。麻痺性貝毒の中毒症状は、軽症では唇、舌、顔面、四肢末端のしびれ感、吐き気、めまい等、中等症ではしびれ感が麻痺に変わり、言語障害や随意運動の困難が現れます。
兵庫県播磨灘では、平成30年から国の規制値を上回る麻痺性貝毒が頻発するようになり、兵庫県の漁業者は、養殖マガキ等の多くの二枚貝で出荷自主規制を余儀なくされています。毒化した二枚貝類の出荷再開には、国の通知により原則3週連続の無毒確認(=規制値以下の確認)が必要ですが、平成27年の改正通知により、貝毒の蓄積や低下に関する科学的知見と根拠が整った場合に限り、生産された海域や貝の種類の特性に応じて期間の短縮化を検討することができると変更されました。(マガキでは広島県のみで事例あり)。出荷自主規制期間の長短は経済的損失に直結するため、漁業者から出荷自主規制期間の短縮化の可能性の検討に対し強い要望がありました。
そこで、これまでの兵庫県播磨灘海域における貝毒監視調査時の調査結果や毒化時の毒量分析結果を用いて本海域の麻痺性貝毒の減毒(毒量の低下)状況を調べ、減毒特性を評価し、試算により出荷再開時のリスク評価を行いました。
その結果、以下のことが分かりました。
・兵庫県播磨灘マガキの減毒係数(毒量低下の指標)は十分に大きく、すみやかな減毒が見込まれた。1例として2020年12月の赤穂地区の減毒状況(図3)を見ると、貝毒原因プランクトンが減少した12月5日に7.7 MU/gであった毒量は急激に低下し6日後の12月11日には2.0 MU/gまで低下した。
・2018年、2020年の毒化時に毒量が4.0 MU/g以下となって以降、再度規制値を上回る事例は確認されなかったことから、貝毒原因プランクトンが減少した場合はいったん規制値(4 MU/g)以下に減毒後、再度、規制値を上回る可能性は低い。
・減毒係数の95%予測下限値による試算では、規制期間を1週間短縮しても試料毒量が規制値を上回る可能性は低い(図4)。
・マガキの個体別の毒量のばらつきを加味した試算では、規制期間を短縮する場合、規制値を下回って1週間後の検査で2.0 MU/g以下が必要条件と考えられた(表1)。
※詳細は農林水産技術総合センター研究報告(5巻、33-42頁、2022)をご覧ください。
これらの科学的知見をもとに、農林水産省消費・安全局との協議を経て、兵庫県貝毒安全対策協議会において兵庫県播磨灘産マガキの出荷自主規制の短縮要件(生産海域、生産方法、生産期間、貝毒原因プランクトンの密度、短縮時の毒量等)が検討され、兵庫県貝毒対策事務取扱要領が改正されました(令和4年10月)。
それから2か月後、令和4年12月に播磨灘(姫路市西部)の養殖マガキにおいて貝毒が発生した際には、安全性確認のための要件が満たされたため、出荷自主規制期間の短縮(通常より7日間の短縮)が実現しました。
今後も貝毒監視体制を継続するとともに、調査結果を基に出荷再開基準の有効性や妥当性を検証していきます。